
「私訪問看護師になりました!」
「えーいいなー。私もしてみたいけど、病棟と何が違うの?」

病棟看護師は看護師になった方が一度は通るであろう最も基本的な働き方です。
そんな病棟看護師と訪問看護師は何が違うのか、疑問に思ったことはありませんか?

結論からお伝えします。
大きく分けると3つの違いがあります。
病棟と訪問の違い
- 勤務形態
- 利用者の目的
- 環境
この3つについて詳しく解説をしていきます。
勤務形態が違います

訪問看護師と病棟看護師は勤務形態が大きく異なります。
夜勤とオンコール。これが大きな違いの1つです。
看護師と言えば夜勤です。夜勤無くして人並みの給与は与えられません。
夜勤をバリバリこなしている看護師さんにとっては最重要である夜勤手当が訪問看護にはありません。

夜勤が無いの楽ですよ?
え、でも夜勤手当無いの辛くない?

手当が無い分、給与が激減してしまうのでは、と心配されるでしょうが、大丈夫です。
夜勤が無い割に収入は病棟の同期と変わらない水準であることが多いです。
これは訪問看護の報酬が関連しているのですが、今回は割愛します。
夜勤が無い代わりに訪問看護にはオンコール対応があります。
これは24時間対応を謳う訪問看護ステーションには必ずあります。
ちなみに勤務形態には例外もあります。
ほぼ自社系列の施設に住む利用者の方ばかりを訪問している場合は夜勤もあります。
絶対ではありませんが、高確率であると思った方が良いでしょう。
同じ施設の訪問が9割を超えるステーションは要注意です。
そんな例外もありつつ、大体の訪問看護ステーションでは夜勤が無いのが現状です。

つまり「夜勤がイヤ、でも看護師はしたい」というニーズにピッタリはまることがあります。
利用者の目的が違います

病院に患者さんが来る目的は「病気を治すこと」です。

じゃあ訪問看護って何を目的に使ってもらうことになるの?
訪問看護を利用する目的を3つ挙げます。

利用目的
- 自宅で生活する為
- 医療的な負担を抑えたい為
- 家族目線で本人の最期を満足のいくものにしたい為
自宅で生活する為

訪問看護を使ってもらうにあたって、一番想像しやすい理由な気がします。
具体例で考えてみましょう。
この患者さんは自宅に早く帰りたい。そうするのであれば、自分でパウチ交換ができる状態が望ましいです。
そこで訪問看護の介入が検討されます。
訪問看護であれば早期退院が可能、パウチ交換に関しては訪問看護師の説明・指導を継続して行うことができるからです。

本人さんや家族さんにも、私がパウチ交換をどのようにしているか見てもらってます。
やり方間違えたまんま覚えちゃった。みたいなのも防げていいね。

医療的な負担を抑えたい為
入院には多額のお金が必要です。

こちらの病院の概算例を参考にすると結腸の悪性腫瘍、つまり大腸がんの手術を行うと自己負担は426,000円となります。
70歳以下の総支給額が25万円前後/月の方は高額療養費制度を使用すると自己負担は81,690円まで抑えられます。
70歳以上の方で現役並みの所得が無い方の場合はもっと安くなり、18,000円となります。
しかし高額療養費制度に以下の負担は含まれていません。
- 入院中の食事代
- 個室代(差額ベッド代)
- オムツ代
- 洗濯代
食事代や個室代は積もり積もるとかなりの額になります。
特に個室は最低でも5,000円以上はします。先ほどの表で同じ症例の平均在院日数を見ると15日とあります。
入院中ずっと個室にいると、個室代だけで60,000円となるのです。
しかし在宅となると話は変わります。
ここでまた具体例を出しましょう。
かかる費用で予想されるのはこちら。
在宅でかかる費用
- 訪問診療代や訪問看護利用料
- オムツ代
- 食費
- 訪問介護等の介護負担
医療費に関しては先ほどの高額療養費制度が適応される為18,000円までです。
これは訪問診療に加え、訪問看護も本来介護負担となるところ、疾患の関係で医療保険請求となります。
訪問看護師が毎日朝昼晩に訪問したとしても18,000円までです。
食費も食べる量によりますが、家計次第で調整ができます。
オムツ代は病院よりも安く抑えられることが多いです。(この理由に関しては割愛します)
訪問介護や介護ベッド等を利用する際には介護負担も発生します。
こちらは医療費とは別になりますが、それでも毎日の個室代よりは安く抑えられることがほとんどです。
家族目線で本人の最期を満足のいくものにしたい為
先ほどの80代女性をもう一度具体例として考えます。
数週間が経過し、日常生活はままならずほぼ寝たきりになったと仮定します。

家族さんは「本人が一番落ち着ける自宅で最期までいさせてあげたい」と仰ってました……。
入院してたら病院ができることも多いし、家族さんも介護する負担が減るけど、「家にいたい」「家族と過ごしたい」って気持ちは在宅じゃないと叶えられないよね……。

自宅は思い出の詰まった場所です。その人にとって最も安らげる居場所のひとつです。
新型コロナウィルスの影響により、現在でも医療機関や介護施設での面会は難しいところがほとんどです。家族の最期に立ち会えない状況が続いています。
そうした背景もあり、自宅で最期を迎えたいと希望される患者さんや家族さんは体感でも増えてきています。
しかし現実問題、自宅で看取ることは介護面、医療面で不安が残りますし、急変時の対応は、話を聞いただけでどうにかなるものではないのです。
そこで訪問看護含む訪問サービスが重要な役割を担います。
必要であれば複数ヵ所の訪問看護ステーションが介入して、利用者さん含む家族のフォローを行います。
看護師の介入により介護、医療の不安が軽減し、自宅での生活を支えることができるのです。

これらの目的からお気付きになるかもしれませんが、訪問看護師は病棟看護師と比べ、より利用者の人生に深く潜り込む形になります。
治療だけではなく、利用者の生活の一部としての役割が求められているのです。
環境が違います


急に呼吸がおかしくなった利用者さんがいて慌てました……。
とりあえず酸素投与!ってできないもんねぇ

訪問看護の現場は利用者さんの自宅、有料老人ホーム、グループホーム……いずれも病院と比べて設備は整っていません。
環境の違いにより考えておかなくてはならないことがいくつかあります。
よく考えよう!
- 急変対応について
- 対応のラグについて
- 家族のケアについて
急変対応について
当然ですが利用者さんの自宅には酸素配管も、救急対応用の物品も、常駐している医療スタッフも何もありません。
特に看護師は基本ひとりで訪問するので、急変を早期に発見できたとしても同職種の応援を呼ぶことは困難です。

急変した時にどうするかを、あらかじめ家族の方やかかりつけの先生と話し合ってないともっと慌ててたと思います。
大事だよねー。その場であれこれなっちゃうと家族さんもテンパっちゃうだろうし。

急変対応については利用者さんに関わる全員が共有した内容を把握しておくのが望ましいです。
体調が安定している時に急変した時の話をするとイヤな顔をされることもありますが、急変はいつ起こるか分からないからこそどんなリスクがあるかを話し合っておく必要があります。
対応のラグについて
施設はともかく、自宅にナースコールはありません。
何かあるときはオンコール対応となります。オンコールでの対応ということは当然屋外であり、近くにいない状態です。
病院の様に同フロア内で呼ぶのとはわけが違います。
つまり、呼んでもらったとしても早急に駆けつけるのは難しいのです。
上記の様に急変対応についても、一定時間は利用者さんの家族に全てを委ねるしかない時間があります。
「呼んでもすぐには来れない状況がある」ことも説明しておくべきでしょう。
急変ではありませんが、実際に対応の遅さを実感したエピソードがあります。
パウチが……
とある利用者さんから「便がもう漏れそうです」とオンコールの電話がありました。
その方は人工肛門を造設しており、定期的なパウチ交換で訪問しておりました。
他の利用者さんに訪問中であった僕が急ぎ向かったものの、その方の家に到着したのはオンコールの連絡が入ってから30分後となりました。
便はパウチから漏れており、ベッド汚染。利用者さんを全介助で全身清拭し、ベッドシーツを丸ごと交換という大変な事態になりました。

辛い思い出です……。
家族のケアについて

家族さんの不安が強いみたいで、傾聴してたら訪問時間ぎりぎりになってました。
そうなんだ……。そういえば私最近患者さんの家族さんと会話してないな。

以前は病院内に家族さんが付き添いとして寝泊まりすることもありました。
現在は病院にお見舞いに来る方もめっきり少なくなったと感じています。
訪問看護の現場、特に自宅という環境においては家族さんがそばにいます。
利用者さんは安心感を得られますし、家族さんもまた利用者さんと過ごす時間を大切にできるのです。
が
家族さんが精神的・身体的に疲労困憊になっている場面を多々見かけます。
利用者さんが自宅で過ごすことと、家族さんの介護負担を減らすことは二律背反しています。どちらの問題も完全に無くすことは出来ないのが現状です。
家族さんのケアは誰もしてくれません。家族さんに寄り添うこともまた訪問看護師の役割のひとつなのです。
家族さんが利用者さんの介護に疲れ果てた結果、精神を病んでしまったり、利用者さんとトラブルを起こしたりして、施設入所となることもあります。
利用者さん、家族さんの双方とも後悔が無いようフォローが必要なのです。
環境が違うと考えるべき事柄も変化します。
根本としては利用者さんや家族さんのことを第一に考えた行動が重要です。これは病棟看護師も変わらない考えでしょう。
まとめ
訪問看護師と病棟看護師の違いについて解説させていただきました。
どちらがより優れているとかそういうのはありません。役割が違いますので。
病棟看護師として働くあなたが、訪問看護との違いを感じて、少しでも興味を持っていただけたら幸いです。
訪問看護に興味を持っていただけたら是非こちらの記事もご覧ください。