
訪問看護師してみたいなあ。
でも就職先とか失敗したくないよね

2022年9月現在、訪問看護に興味を持つ看護師さんは増加傾向です。
しかし、看護師人口の3~4%である訪問看護の分野はまだまだ情報が少なく、失敗しない転職のコツが分かりにくい問題があります。
この記事では、現役の訪問看護ステーションの管理者である僕が、今までの経験に基づいて考える「失敗しない訪問看護師のなり方」を解説します。
この記事を読むと
- 訪問看護ステーションを選ぶ基準が分かります。
- 訪問看護師に有用な勉強内容が分かります。
結論からお伝えします。
下記の5ステップを踏むことで新卒の看護師さんでも訪問看護師になることができます。
5ステップ
- step1:自宅周辺の訪問看護ステーションを調べる
- step2:訪問看護ステーションの見学
- step3:バイト・パートで実際経験してみる
- step4:給与交渉してみる
- step5:学びを増やす
訪問看護師とは


そもそも訪問看護師ってなんですか?
そりゃあんた訪問する看護師さんでしょ……ん?

訪問看護師とは主治医の訪問看護指示書等の交付を受け、訪問看護を提供する看護師のことを指します。
字面だけ見ても具体的にどんなことをするのか分かりにくいですね。
簡単に訪問看護師の特徴などを説明します。
病棟看護師との違い
大きく3項目の違いがあります。
違い
- 勤務形態
- 目的
- 環境
勤務形態の違い
訪問看護には夜勤がありません。
多くの訪問看護ステーションは営業時間を日中にしているので夜間も営業していることはありません。その為夜勤がありません。
つまり
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夜勤は絶対したくない!
でも看護師は続けたいんだよなあ。
そんなあなたにピッタリなのが訪問看護です。
例外として自社系列の施設に訪問している「てい」の訪問看護ステーションですと夜勤があります。
目的の違い
「利用者の」目的が違うのです。
病院は疾患の治療を主軸に置いています。
訪問看護は日常生活の援助が主軸であることが多いです。
疾患の治療よりも、その人が自宅で過ごしやすい環境を作る為のサービスとして看護を提供しています。
煙草を吸っている肺疾患の利用者さんがいるとしましょう。
病院ではなにがなんでも禁煙してもらいます。治療の妨げになりますからね。
訪問看護では禁煙を促しますが、強制はしません。個人の自由だからです。
環境の違い
病院は設備の整った場所で業務を行いますが、訪問看護の環境は整っていません。
利用者さんの自宅、有料老人ホームやグループホームのような介護施設が主です。
呼吸機能が弱っているので酸素配管から酸素マスクをすぐ繋ぐ。そんな対応がすぐできる環境では無いのです。
急変時の対応については家族や医師とよく相談しておくことが求められます。
もっと詳しく詳細を知りたい方はこちらの記事をご参照ください。
実際の業務内容
主な業務トップ3
- 健康管理(バイタル測定、全身状態観察、傾聴)
- 薬の管理(服薬介助、服薬カレンダーセット)
- 運動訓練(PT・OTほど専門的ではない。上記2つと組み合わせることが多い)
重篤な方の訪問は緩和ケアが主ですが、全体の訪問の10%程度です。
病棟とどっちがいいの?
あなたの性格によります。
患者さんの治療を最前線でサポートしたい方に訪問看護は向いていません。
最新の医療を知りたい、急性期でバリバリ働きたい。こうした思いを持つ方には訪問看護業務は物足りなさをを感じるでしょう。
病院と利用者さんの橋渡しがしたい、日常生活の援助を起点とした看護を提供したい。こうした思いを持つ方には訪問看護が向いていると言えるでしょう。
訪問看護師については以上です。それでは本題の詳細について解説していきます。
訪問看護師になる為のステップ5つ

5ステップ
- step1:自宅周辺の訪問看護ステーションを調べる
- step2:訪問看護ステーションの見学
- step3:バイト・パートで実際に経験してみる
- step4:給与交渉してみる
- step5:学びを増やす
では1つずつ解説していきます。
自宅周辺の訪問看護ステーションを調べる

自宅周辺でもまずは自宅から近いところを探すのですね!
……なんで自宅から近いところを先に探すのですか?
単純に事業所までの通勤時間を短くしたいのと、オンコール対応に関わることがあります。
事前に介護事業所・生活関連情報検索で調べておくと良いでしょう。

家から近い事業所のメリット
- 通勤時間が短縮できる
- オンコール時の緊急出動を短時間にできる
通勤時間が短縮できる
「家から近い事業所=訪問の範囲も家から近い」ことが多々あります。
通勤中に訪問に行き、最後の訪問は事業所より家の方が近いので終わったら家に帰る、という状況が作りやすくなります。
オンコール時の緊急出動を短時間にできる
オンコールは基本自分の自宅から向かうのですが、家から近いお宅の場合、緊急対応を迅速に行うことができるのです。
逆に言えば「家から遠い事業所=訪問の範囲も家から遠い」ので、自宅から遠い事業所を探すのは後回しにした方がよいでしょう。
例外として、自宅周辺で仕事をしたくない、知り合いに会う可能性を抑えたい等の理由がある場合は自宅から遠い事業所を選ぶと良いです。
これらはあくまで「そういう傾向」という話なので、自宅から近い事業所だからといって全ての訪問先が自宅周辺に固まっている訳ではないことはご了承ください。
注意点として僕の所属している事業所ではやっていないのですが、オンコール対応はAさんだけど、実際に訪問するのは訪問先に近いところに住んでいるBさん。という仕組みにしている事業所さんもあるようです。
この仕組みはBさんの心身が休まらないので、個人的にはやめてほしい仕組みですね。
訪問看護ステーションの見学

あ、見学したい事業所は直感で決めてくださいね。
え!そんな感じで決めていいの!?


最初は比較するべきポイントも何も分からないと思います。この時点では就職する訳ではありませんので、どんどん見学して自分なりに「良いと思えるポイントが多い」事業所を就職候補に挙げていきましょう。
ネットで事前情報を調べることも大事ですが、スタッフの人柄は見学して会ってみないことには分かりません。
少しでも良い事業所と巡り合うコツはとにかく数多く見学することです。
見学するとこれが分かる!
- 事業所内の雰囲気
- 待機中の様子
- 訪問の大まかな範囲
- 実際の利用者さん(利用者さんと事業所が許可してくれた場合)
ちなみに見学の為に転職サイトを利用するのはオススメしません。
転職サイトは転職を成約させて初めて報酬が発生する仕組みであり、見学の為のサービスではありません。
転職サイトの運営、担当者も人間です。無報酬で十分な成果はあげてくれません。
本当に転職したいと思った時に、過去そうした使い方をしていると親身になってくれない可能性もあります。
転職サイトの利用は転職を考えている時にしましょう。
事業所内の雰囲気
大抵の事業所は管理者が見学するあなたの担当をします。
管理者の人柄が苦手なタイプなら、その事業所は避けましょう。
給与や立地が良かったとしても、人間関係が悪いと長続きはしません。
ちなみに事業所はプレハブ小屋であったりアパートの一室であったり形は様々です。
待機中の様子
事業所にいる人は次の2パターンです。
1.訪問の合間で帰ってきた訪問スタッフ
2.事務さん
訪問スタッフさんであれば、話す機会を作り、職場について聞いてみるのも良いでしょう。
訪問の大まかな範囲
訪問先の大まかな住所を聞くことは、実際の訪問範囲を把握するのに役立ちます。
事業所から半径5kmくらいが現実的な範囲です。
訪問スタッフが3~4人にも関わらず、10kmを超える範囲の利用者が多いところであれば僕は辞めておいた方がよいと思います。
理由は、訪問看護というサービスが地域に根差すものであるにも関わらず、半径10kmは地域というにはあまりにも範囲が広すぎるからです。
実際の利用者さん(利用者さんと事業所が許可してくれた場合)
実際の訪問を見学する機会があればかなりラッキーです。
条件は厳しいですが、訪問の様子を実感するのにこれ以上の体験はありません。
その場を設けてくれた利用者さん、事業所の方へ感謝して、見学者として礼儀正しい振る舞いを心がけましょう。

見学させてくれない事業所さんの場合どうしたらいいですか?
そもそもあまり許可は得られず、業務が繁忙である時期は難しい場合もあります。せめて、なぜ見学が出来ないのか理由を聞くくらいは良いと思います。

バイト・パートで実際に経験してみる

良さそうな雰囲気の訪問看護ステーションを見つけました!
早速面接します!就職します!
ちょっと待ってください!
なんか良さそうという感覚だけではまだ不安が残ります。バイト・パートでの働き方が出来ないか検討してみましょう!

雰囲気も良く「ここでならやっていけそう」と思える事業所が見つかったあなた。おめでとうございます。
ですがまだ安心してはいけません。
あなたが現在、病院や施設など正規雇用されている職場があろうと無かろうと、まずは単発のバイト(非正規雇用)などで雇ってもらえないか打診してみましょう。
メリット・デメリットはこちらです。
非正規雇用のメリット
労働者(あなた側)のメリット
- 現在の勤務先を辞めることなく、訪問看護の実際を体験することができる
- 他の事業所と掛け持ちすれば、比較することができる
- 訪問範囲や利用者の傾向をより詳細に把握することができる
雇用主(相手側)のメリット
- あなたのことを正規雇用したい人材かどうか判断ができる
- 気に入ってもらえれば人材確保の幅が広がる
- 繁忙期や閑散期に人件費の調整ができる
非正規雇用のデメリット
労働者(あなた側)のデメリット
- ダブルワークの場合、心身への負担が増す
- バイトの時点で評価が悪くなってしまうと入職が難しくなる
- 他にも試したい事業所があったのに、スタッフや利用者の説得で就職してしまう可能性がある
雇用主(相手側)のデメリット
- いつ辞められてもおかしくないので依存はできない
- 希望シフトが訪問の予定とかみ合わないことがある
- 利用者さんとの信頼関係に影響を及ぼす可能性がある
メリットに関して詳しい解説をした記事はこちらです。
デメリットに関しての記事は作成中です。
記事完成をお待ちください。
給与交渉してみる

見学の雰囲気も良い!
週2くらいで働いてみたけど訪問範囲も良い感じだし利用者さんも穏やかな人が多い!
あとは……前の病院で夜勤込みくらいの給料もらえたらひとまず安心なんだけどなあ……。
良い事業所が見つかったようで良かったです。
では就職を更に前向きに考えられるよう人事の方と給与交渉をしてみましょう。

経験年数の浅い方は「私の経験で給与交渉は無理」とお思いになる方が多いです。
ですが、看護師としての経験が少しでもあるのなら給与交渉はするべきです。
例えば1ヶ月しか急性期病棟で働いていなかったとしても、「急性期病棟での経験があります」はウソではありません。
もっと具体的に考えてみましょう。
- あなたは新卒で総合病院に入職し、3ヶ月程度急性期病棟で働いていた。
- 急性期病棟では消化器外科や整形外科領域の患者さんが多く入院していた。
- 手術前後の準備、病名、手術名等を少し学ぶことができた。
- 慣れない環境で心身の疲労がピークに達し、退職をする。
こうしたモデルの場合、給与交渉の際に相手にはこのように伝えます。

私は○○総合病院の急性期病棟で数ヶ月働いておりました。
急性期における病状の進行や病名、術式について学ぶことができました。
訪問看護ではこの経験から、急変の兆候や異常の早期発見に役立てることができます。
○○総合病院では年収がこのぐらいでした。手取りで(具体的な数字)万円頂きたいです。
ご一考お願い致します。
伝える際のポイントは3つあります。
ポイント
- その地域で名の知れた病院ならば病院名を出す。
- 経験がどのような形で訪問看護に活かせるのかを考える。
- 給与は具体的な数字で交渉する。
その地域で名の知れた病院ならば病院名を出す
これは「ハロー効果」を狙ったものです。
「ハロー効果」とは、ある対象を評価する際に、分かりやすい特徴などに引っ張られて評価が歪められる現象のことです。

わたし、○○病院で働いてました。(といっても研修終わってすぐ辞めたけど……)
いい病院じゃん!すごいね!(頭いいんだろうな、要領もいいのかも)

世間的に評価されている病院で働いていただけで、他の面まで良いように解釈される場面を見たことは無いでしょうか?
あなたが名の知れた評判の良い病院で働いていたのならその名前を使うべきです。
人事が判断するのはより優れていると思われる方です。
あなたと同じような実績を持つ看護師同士の場合、以前働いていた病院は必ず査定要因の一つになります。
経験がどのような形で訪問看護に活かせるのかを考える
経験した内容を伝えるのは当然として、それがどのように訪問看護に活用できるのかを伝えることが相手のニーズを満たします。
「急性期を経験した」だけではダメで「急性期にいたので急変時の対応ができる」
「慢性期を経験した」だけではダメで「慢性期にいたので注入や導尿のカテーテル管理ができる」と言うべきです。

あのー……急性期にはいたんですけど、急変は経験してないです……。その場合どうしたら……。
経験した内容を洗い出して、訪問看護にどのように活かせるものがあるか考えましょう。
ウソをつくのはダメです。

例えば勉強会の資料を活用するのも良いでしょう。
転倒予防の為にどのような対策をしているかの勉強会があるとします。
その資料を元に

「転倒予防の対策に必要な指導を介護施設のスタッフさんや利用者の家族さんに説明できます」
と言えばどうでしょう。資料はもう完成している訳ですし、それを丸パクリせずとも、ある程度自分の言葉で説明できれば、なんだか出来る看護師さんっぽく見えてきませんか?
この記事を読んでいる段階でまだ正規雇用されている職場で働いているなら、訪問看護に使えそうなネタを集めておくのをオススメします。
給与は具体的な数字で交渉する
あなたの魅力が思う存分にアピールできたらいよいよ具体的な話をします。
イメージしてください。あなたは人事担当側、スタッフの給与を考えている立場……。
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良い人材みたいだな。給与上げてもいいかも……でも具体的な給与に関しては曖昧だし……うーん。あの人と同じくらいでいいかな。
こうなってしまうとあなたが必死で自己アピールした内容も全て無駄になります。
そうならないように準備するものが「源泉徴収票」です。
転職する際に必ず必要になるもので、そこに書かれている数字はあなたの年収が書かれています。
これを人事担当に見せることで「私は年収○○円の人材である」とアピールできるのです。
更にその数字を踏まえた上で「月の手取り収入が22万円欲しいです」と具体的な数字を伝えるのです。
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前の年収がこれくらいか……。月の手取り22万円ならあの人くらいかな。うん、いいかも。
と上手くいけばこうなるわけです。

僕は実際この方法で地域の平均以上の給与を頂くことに成功しています。
学びを増やす

給与も病棟経験を加味して少し考えてくれるそうです。就職決まりました!
おめでとうございます!それではこれからたくさん勉強しましょう!


え…………?
就職が決まれば終わりではありません。むしろここからです。
訪問看護師は訪問看護を提供するのが主な仕事です。これは大前提です。
更に学び知識を深めると、より質の高い看護を提供することができます。
いくつか具体的な学びを解説します。
関連する職種についての知識を持つ
訪問看護師になると、病院以上に多くの職種と関わりを持ちます。
主に関わる職種がこちらです。
他職種
- ケアマネージャー
- ソーシャルワーカー
- 主治医
- 理学療法士などのセラピスト
- 介護士
- 通所サービス(デイサービス、デイケア)スタッフ
- 介護施設スタッフ
- 他の訪問看護ステーションの看護師等
ひとりの利用者さんをサポートするために多くの職種が介入しています。
今挙げた職種についての知識は大まかに頭に入れておきましょう。
これらの職種が何をしているのか理解すると、利用者さんから訪問看護の範疇を超えた領域の質問をされても、適した他職種に割り振ることができます。
訪問看護にかかるお金についての知識を持つ
基本療養費等訪問看護にかかるお金は全国一律どこでも同じです。
地域区分により若干の差はありますが、概ね同じです。

訪問看護基本療養費や加算。大事です。
就職したらまず利用者さんと契約するときに使う「重要事項説明書」を見せてもらいましょう。
そこには料金表が載っています。これを丸暗記するか、常に持ち歩くようにしてください。
サービスを提供する側として、自分のサービスがいくらかを把握しておくのは金銭のやりとりをする上で重要です。
あなたが物を買いたいと思って入ったお店の店員さんが、並んだ商品の値段を知らない・分からないでは不安になりませんか?
徐々にで構いません。料金表から覚えておいてください。
高額療養費などの制度についての知識を持つ
先ほどの訪問看護にかかるお金に関連して、高額療養費などの制度についても知識を深めましょう。
制度の理解は料金表と比べ難解です。実際に制度を利用する方でも、全容を把握していない方が多いです。
まずは高額療養費について理解していくことをオススメします。
利用者さんだけでなく、あなた自身が大きな病気になった場合にも役立ちます。理解を深めて損はありません。
まとめ

今回は失敗しない訪問看護師のなり方を解説しました。
訪問看護師になるには5つのステップを踏みます。
5ステップ
- step1:自宅周辺の訪問看護ステーションを調べる
- step2:訪問看護ステーションの見学
- step3:バイト・パートで実際経験してみる
- step4:給与交渉してみる
- step5:学びを増やす
5ステップを上手く踏んで事業所選びや勉強に役立てていただけると幸いです。
また、この記事を書いている僕個人としてはステップを飛び越えていきなり転職するのは否定しません。
なぜなら経験や体験はしないと分からないことばかりだからです。
足踏みして後悔するくらいなら、いっそ飛び込んでしまった方が清々しいです。
その場合は転職サイトをしっかり活用しましょう。
担当者はきっとあなたの転職をサポートしてくれます。

あなたの良き訪問看護師ライフを応援します。